一羽のスズメ

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*以下の文章自体は10年近く前に書いたもの

 

仕事から自転車での帰り道。 

路地を入った住宅地の道のすみにうずくまるスズメを発見してしまった昨日。 

 

近づいても飛び立たず、死んでるのかなと思いさらに近づいてみる。弱々しくではあるが呼吸をしていた。まだ息がある。時折薄目を開いて身体を動かそうとしているようだ。 

 

見つけちまった以上そのまま放置も出来ず、とりあえずそおっと手に乗せてみる。苦しそうに息をするスズメ。ケホっとしたかと思うと、クチバシからはわずかに血を吐いている様子が見て取れた。 

 

もう助からないかもしれないな。 

思ったところで、ここで見捨てて行けるほどヒトとしてわたしも強くはない。 

夢見が悪いのもゴメンだ。理屈はさておき、目の前の失われそうな命を救うための可能な限りの努力はするべきなんだろうと思った。 

スズメをそおっと自転車の前カゴのリュックの上に乗せ、いちばん近い動物病院までそおっと走った。 

 

寒風にさらされた道中、それでもスズメは生きていた。完全に目をつぶってしまい死んだのかと思い声をかけると、こたえるように薄目を開く。もう羽ばたく体力すら残っていないようだったが、羽根をふくらませ、体をもぞもぞと動かしている。 

無事に動物病院まで運んできたが診療時間外。迷惑とは知りつつ思わず電話をかける。幸い病院の人たちはすぐに出てきて対応してくれた。 

 

「鳥さんはね、正直してあげられることあまりないんですよ」 

病院の先生は言った。 

そんなことはわかってる。どのみち助かる気はしてなかったし、助かったところでどうって話でもない。 

ただわけのわからない感情に揺り動かされてそこまで行っただけだ。 

 

できるだけの努力はしてみますとのお話にお願いしますと答え、そそくさとその場をあとにした。 

治療費三千円。偽善って高くつくわね、と思いながら帰宅。 

数時間後その病院から、スズメは息を引き取りましたとの連絡。 

 

なんだかわれながらバカなことをしたな、といろいろ複雑な気持ちになってた。うちに連れ帰って看取ってやったほうがよかったのか。 

 

夜、帰宅したはむぺむに「バカにされるかな」と思いながら一連のことを話す。彼は意外にも理解と同情を示してくれ、俺も同じことをしてただろうからと言ってくれた。 

そして言ってるほうも聞いてるほうも笑っちゃうほど定番中の定番台詞「最後にヒトに優しくしてもらって喜んでるだろ」に、不覚にもちょっと泣いたたるたるさんでした。 

 

わたしは鶏肉だってバンバン食うし、スズメだって料理屋でだが食ったことある。あたりまえに獣肉を食い、虫を殺し、人間至上主義でオールOKの自己中なイキモノ。そうやって日々を生きてる。

 

でも目の前の失われそうな命に対してはさまざまな感情がぐるぐる。 

結果的には一羽のスズメが死んだだけだが、わたしはわたしの自己満足のためだけにあいつを野垂れ死にさせなくてよかったとは思ってる。 

 

ヒトってホント、不思議な生き物だ。

 

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